Archive for 01 February 2010

01 February

<Natalis News>より  心の“燃料計”が見えていますか?

 何歳であっても、いつも明るく幸せそうで、みんなに好かれる人がいます。それは、特別な技能や能力でも、まして経済的な地位とも関係なく、その人の心のありように由来しているのでしょう。自足することを知り、周囲を優しい光で照らす満月のような福々とした心をもった人になりたいものです。
 さて、ではどうすればそうなれるのか、です。人生経験を重ねるなかでそんな境地に達した場合もあることでしょうが、多くは幼児〜子ども時代の「心の環境」と思春期の自己形成が鍵となるようです。前者については、ほとんど親や家庭という外部要因の問題であるわけですから、親としてはなんとかしてやりたいと思いますし、責任があると言えるかもしれません。
 まずは赤ちゃんを例に考えてみましょう。生態学的に記述すれば、赤ちゃんは養育者に食べ物とともに安全と安心を求めます。お腹が空いたら泣きますし、音でも気温でも何か脅威と感じたら泣いて知らせます。生存の為に必要な環境を整えてもらう欲求です。また、自分の成長を助ける刺激を与えることも要求します。例えば、世話をしていると、かわいい声を出して反応しもっと多くの声かけを引き出そうとします。それはやがて言葉を獲得するために必要な言語刺激なのです。そして、これら食べ物や環境や言語などの充足と同時に、安心させてもらうこと、つまり、「大好きだよ」「守ってあげるよ」という養育者のメッセージを確認したがっているのだと言えるでしょう。
 そんな赤ちゃんですから、欲求が満足されているかどうかが常に最大の関心事で、その充足感や飢餓感の長期的な状況が感情や性格の基底となる部分に影響を与えることは想像に難くありません。では働きかけをどうすべきか考えてみますと、空腹にさせたらいけないからといつもお腹が空く前にミルクを飲ませようとするような育児がだめなことは明らかです。赤ちゃんが本当に求めているのは自分のことを考えて満足させてくれているという、いわば相手の“心”をやり取りのコミュニケーションの中で確認することなのです。そう考えれば、「大丈夫だよ、わかっているよ」というメッセージを込めて、実際の言葉も添えて世話をしてやるという方針でよいことがわかります。
 赤ちゃんを例にしてきましたが、2歳でも5歳でも小学生になっても、この「気持ちの充足」の大切さは変わりません。ただし、言葉で伝える比重は年齢とともにどんどん大きくなります。例えば、2歳で最初の反抗期が来たとき。何でもいやがってやりたがらない。あの手この手もまったく通じず、親を困らせようとしているのかとさえ思えてくる、そんな時はどうでしょう。「何回言ったらわかるの」「どうしてあなたはそうなの」「お母さんもう知らないよ」などと思わず言ってしまったり、不機嫌なサインをぶつけたり。でも、本当はわかっているはずです。子どもは自分で制御できない衝動のようなものに突き動かされているだけで、自立のために必要な第一歩を踏み出しているだけだということが。つまり、本当はここで「大丈夫だよ、いいんだよ」としっかりとメッセージを伝えてあげることが大切なのです。その上で個々の対策をたてればよいわけです。ポイントは、その子の愛情の“燃料タンク”を常に満タンにしておいてやることなのです。
 4、5歳になればもっと言葉で十分に納得できるまで話すことです。しつけとして厳しくダメ出しをすることも必要になりますが、「(あなたの気持ちは)わかっているよ」というメッセージがきちんと伝われば、ちゃんと納得して改善できるものです。
 子育ては決していつも順調とはいきません。けれども、子どもの心が今どんな状態で何を求めているのかが常に見えていれば、そしてそれにきちんと応えてやり、心からのメッセージを伝えられれば、どんな子も情緒が安定し満ち足りた幸福感を備えた人になれるのです。そして、忘れてならないのは、あふれ出す幸福感こそが他者への本当の優しさとなり、同時に、あらゆる困難に立ち向かう勇気と頑張りの原動力となるということです。

13:40:17 | natalis | |