Archive for 01 August 2011

01 August

<Natalis News>より   我が子の脳の発達は !?

 震災の少し前に配信されたニュースにたいへん興味深いものがありました。それは、ご記憶の方もあるかと思いますが、

 東京大学大学院総合文化研究科の開一夫(ひらきかずお)教授らの研究グループが、幼児の脳機能発達過程には複数のプロセスが存在することを突き止めた。

というものでした。さっそく論文にアクセスして読み始めた時にあの震災が起き、長らく触れられないままになっていましたが、内容を簡単にまとめると、ある認知課題を3歳時点で解けた幼児とそのときは解けなかったが4歳になってから解けた幼児では、課題を解く時に使う脳の領域が異なることを証明したということです。これは、全く同じ課題を解くのに、発達の違いによって脳の異なる部分が主に使われているということで、幼児の脳の発達には複数の経路が存在することになります。
 これまでの研究では、ある課題を遂行するのには特定の脳領域の活動が対応していることが示されていて、その領域の活動が強くなれば課題の成績が向上すると推測されていました。つまり、脳の発達は一本道だという想定です。こうした考え方は、幼児から高齢者までを対象とした、これをやれば頭が良くなる式の「脳トレ」ドリルなどのブームの根拠の一つでもあります。しかし、今回の研究成果で、子どもによって脳の発達プロセスは違うことがわかったわけで、「子どもに対する画一的な教育的関わりでは不十分で、子どもに応じて関わりを変える必要性があることを示唆している」と発表者らもまとめています。
 面白いのは、時間が経ったために、これを報じた記事に付けられたTwitter上の多数の反応も読めることです。中には、"やっぱり個別指導が一番なのか"とか、お受験で奮闘中の母親からは、"大手の画一的なクラスだけではダメで、我が子に合わせた家庭教師か個別指導も必要だ"といった短絡的な反応も見られましたが、大半は、子ども一人ひとりに合わせられる家庭教育の大切さを再確認するような穏当なものでした。
 一口に脳科学といっても現在ではたいへん幅広い領域にわたっています。最先端の研究者の先生方を何名か存じていますが、一様に、最新の研究成果であっても特定の具体的な教育法に結びつけることには非常に慎重です。脳の部位や脳内物質の名称や果ては研究装置までを売り文句にした○○方式とか××理論といった説明のつく教育商品が多数出回っていますが、やはり注意が必要でしょう。
 ただ、もちろん立証された研究成果は、正しく判断すれば大きな方向性を示してくれる指針としてはたいへん有効です。たとえば今回のものも、従来から蓄積されてきた脳の可塑性に関する知見(障害などで損なわれたり欠損した脳部位の働きが、別の部位によって肩代わりさせるようになる等の脳の機能の再配列が起こる性質)や、教育現場や日常生活における子どもたちの伸び方の幾多の実例に照らして見れば、日頃繰り返しお伝えしている『我が子の成長曲線』を理解しそれに沿った働きかけや環境づくりをすることの重要性の根拠の一つとなるものに他なりません。
 「3歳になるのに走り回るばかりで…。」「小学校の勉強も進んできたのに大事なことを覚えることが苦手で…。」「中学生になってもなかなかヤル気がでなくて…。」何歳になっても親の悩みは尽きないものです。それは、子どもの内部の発達のプロセスが、外部(親や学校の側)にある理想像通りにはいかないことを示しているだけかもしれません。しかし、可能性を信じてその子に合った伸ばし方を追求していけば必ず成果が出ることは、多くの実例が示してくれています。それができるのは家庭しかない、とまずは決意を固めましょう。時にはひと山越えるのに長い時間がかかるかもしれませんが、私たちも全力でお手伝いさせていただきます。

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