Complete text -- "<Natalis Newsより> 「環境」の力"

03 October

<Natalis Newsより> 「環境」の力

 ご存知の通り、NHKのEテレで放送中の『スーパープレゼンテーション』は、現代の生きた英語とプレゼンテーションでのスピーチの見本として最良の教材の1つです。内容も、ビジネスに限らず、文化、芸術、科学、IT等のまさに「いま世界を変えようとしている」人々の最先端の話が聞けますから、あまり知らない分野の回でも、いやそんな領域こそ新たな刺激として子どもを巻き込んで視聴してみられるようにお勧めしています。
 もう1つの良いところは、様々な分野で世界の先頭を走る人々の出自の多様性と、それがわかる発音やイントネーションが残る、様々な、しかし模範的な英語に触れられる点です。英語が世界の共通語になったということの意味が、英米ネイティヴの民族的言語の敷衍ではなく、ノンネイティヴも参加してユニヴァーサルなコミュニケーション手段としてつくりあげられてきているのだということが、よく理解できます。
 最近では、9月24日放送のMina Bissell博士の回。テヘランに生まれたビッセル博士が少女時代にあのパーレビ国王から成績優秀で表彰された際の白黒写真から始まります。その後、ハーヴァード大学医学部等を経て、現在はバークレーの国立研究所でがんの研究を指導しています。半世紀以上の滞米生活で彼女の英語は完璧で、医学の最先端の話をしながらも感動さえ感じさせる話術と表現力が視聴者をぐんぐん巻き込んで行きます。そんな彼女の発音には、アジア出身者のアクセントが明確に残っていますが、あの50年以上前の写真の時代から今日までのイランと米国の歴史の変遷 ー 留学の地、米国という環境が与えてくれたもの、50年以上を経ても言葉に残る母国の運命と米国との関係 ー を思えば、それは彼女のアイデンティティの深い部分と不可分の、他人が想像し得ないつながりをもっていることでしょう。プレゼンテーションの内容とは関係ないことですがそんなことを一瞬感じたのでした。(※映像とスピーチの英文原稿が番組のホームページに掲載されています。)
 博士の研究、細胞が周囲の微細環境=(micro)environment と影響し合うことでがん化するか決まるという画期的なアイデアは、がん治療のまったく新しい方向性を拓く可能性のある研究で、今後の展開が期待されます。個人的に心をひかれたのは、細胞の1つひとつが取り巻く周囲の環境によってその振る舞いを変え、極端に言えば運命を変えているという点です。人間のあり方や人生と、その体を構成する数十兆の細胞とが同じように周囲の環境となにか決定的なやり取りをして動いている、ということは実に示唆に富んでいます。生態学的 (ecological) な発想と言ってしまえばそれまでですが、これまで常にお伝えしてきた以上に、環境とのやり取りとそのフィードバックというダイナミックな発展の課程といった観点をもっと教育上の方法においても追求していくべきとも思いました。
 そんな折、文部科学省は大学の国際競争力を向上させグローバルに活躍できる人材を育成する目的で、「スーパーグローバル大学」37校を選定し、支援を行うと発表しました。既に様々に報道されていますので、ここでは踏み込みませんが、政府が世界に開かれた大学へと変えようとしていることは確かです。既報の大学入試改革や留学生増加策等と合わせ、今後「グローバル化」に向けた施策が順次打ち出され、新しい時代がどんどん準備されているのです。ただし、それは同時に教育格差拡大の懸念にもつながっていくことでしょうが。
 問題は、我が子です。どんな場所で刺激を受けどんな相互作用をしながら自分という人間を作り上げていくのか、また、その選択のために必要な基本的な能力は何か、まずは親の側で話し合ってみていただきたいと思います。今はまだ幼くとも必ず自立へと向かって成長していく我が子という細胞を包む微細環境の第一は、この家庭なのですから。

19:37:59 | natalis | |
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