Complete text -- "<Natalis News>より   令和、新時代の幕開けに"

01 May

<Natalis News>より   令和、新時代の幕開けに

 平成から令和への移行は静かに粛々と進められ、大した実感もなく新しい時代を迎えているといえるのでしょうか。国内だけのこと
ですから当然かもしれませんが、しかし、私たちは共に生きた象徴天皇の御世によって一つの時代を括り想いを馳せることができる特別な区切り、いわば共有のアルバム・タイトルを持っているのだと考えれば、年号も滋味深く感慨を呼びます。
名前を改めて新時代とするには、 個人的には、このタイミングはちょうどよいのかもしれないとも思います。常々当欄では(当然のことながら)、この国の教育改革の進捗に注目して具体的に子供たちの今後の教育環境がどうなるのかについて書いてきましたが、 もっと大きな視野で見ても、人類の営みは新しい段階に入り始めていると思われるからです。
 グルーバリズム云々の議論はもう不要でしょう。お金と経済、科学とともに情報もボーダーレス化している今、固有の文化をどう折り合いをつけていくのかという問題はあっても、グローバル化を止められるものは無くむしろ加速していくだけでしょう。そこにAIや遺伝子工学等がさらに発達していくなかでどのように時代が進んでゆくのかを考えるとき、私の意見を披瀝しても説得力に欠けますが、ユヴァル・ノア・ハラリの 『ホモ・デウス』が描く近未来は十分参考に値しそうです。
 読まれた方も多いと思いますが、近年の最重要書の一つであることは間違いない 『サピエンス全史』 の続編であり、我々ホモ・サピエンスの誕生からの歴史を現代からの視点で俯瞰して見た上でこの先に続く未来を予測したのが、本書です。人類は、貨幣や宗教、さらには「国家」のような虚構を共有化したことで圧倒的な力を得、近代になって科学と資本主義が相俟って「人間至上主義」という宗教=共同幻想のもとで生物としての限界を超え、神(デウス)の位置にまで達しようとしていると筆者は言います。その前提には、生き物をアルゴリズムに、生命をデータ(処理)に還元するところまで推し進める科学 (生物工学、サイボーグ工学、非有機的生命工学)とAIの急速な発達があります。人間が完全に神の自由を手にするまでにはまだ時間がかかるとしても、 そのような方向に科学と資本が邁進していくことを誰にも止められないどころか、既に着々と現実化し始めている時代を迎えているのです。
 では、そんな時代に私たちはどうすればよいのでしょうか、特に我が子のためには。情報に踊らされるのではなく、己自身と環境を知ることからから始めるべきだと私は思います。世界が進んでゆく方向は簡単には変えられないにしても、そのこと自体を正確に、かつ、総合的に理解することが必要です。そのためには広い分野の情報を集め批判的に咀嚼した上で吸収するリテラシー能力と、それらを自分の考えの総体の中に位置付けて発信・交換できるコミュニケーション能力を育むことが鍵となるはずです。要は、基本なのです。
 新しい時代は、たしかに人類にとって未知の領域に踏み出す大変革の激動の時代かもしれません。しかし、今平成という時代を冷静にしみじみと振り返ることができるとしたら、なんとか生き残るためにしてきた努力だけでなく、私たちの培ってきた文化と伝統に沿った地に足のついた生活もまた、力となったということでしょう。少しだけ自信も持って、視線は広く遠くまで、しかし自分自身もよく見て、まずは何より基本を鍛えていくことから始めればよいのではないでしょうか。そうして、この令和と名付けられた新しいアルバムに、美しい調和に満ちた写真を豊かに並べられるように歩み続けたい、と切に願います。 



00:05:00 | natalis | |
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