Archive for 01 May 2009

01 May

<NATALIS Newsから> グローバリゼーションと子育て:親としての覚悟

 大恐慌一歩手前の世界同時不況の嵐が吹き荒れているさなかに、今度は新型インフルエンザが意外な国から一気に世界中へ広がってしまいました。ほんの10年程前までは、まだ情報と経済を中心とした「国際化」という印象だったものが、今では生活の隅々までが世界中の様々な事象と直結していて直ちにその影響を受けてしまうほどグローバリゼーションが深化進展して、もはや逃れがたいものになっていることを思い知らされます。
 私たちは世界とつながっています。今夜食べる食材の輸入先はどんな状態で、そこで生産や輸送にかかわる人々の生活はどうなっているのか。調理するためのエネルギーはどこからどのような仕組みで供給が維持され、また、それを使うことで排出される物質の影響は地球全体で何を起こしているのか…。学校でも、「環境」教育や「身近なエコ運動」など、毎日の生活を見直すことが教えられています。しかし、それで十分と言えるでしょうか。私たちの日々の生活の舞台自体がもはや私たちの実感以上に変わってしまっているのです。何を変え、何を我が子に伝えるべきか、私たち親にも真剣な見直しが迫られているように思われます。ここで述べたいことは特に二点:世界のあらゆる人々や事象とつながっているという感覚の切実さの問題と、私たちの置かれた立場の自覚から行動へ、いわば、‘知性の noblesse oblige’のことです。

 一つ目は、「今・ここ」という狭い視野しか持たない子どもたちの中でも特に平和で恵まれた環境に暮らすこの国の子どもたちに、どれだけ切実にこの星の実態が伝えられるかということ。いや、伝えるのではなく、自分のこととして感じられるようにするということでなければなりません。自爆テロで何人死亡というニュースはもうテレビでは放送もされなくなり、新聞の片隅で見ても無反応になってはいないでしょうか。そのテロが明日東京で起こっても何も不思議は無いはずなのに。なぜこんな恐ろしいことが起こるのか、どうやったら解決できるのか、そんなことをもっと話し合うべきではないでしょうか。また、一方で戦争と殺戮のテレビゲームに夢中になっている子どもたちが多数いることをどう考えるべきでしょうか。
 もちろん、テロはほんの一例にすぎません。一つ目の答えは、「もっと知ること」から始める以外にないのだろうと思います。実態を正しく知り、背景まで掘り下げて考える。そのためには地理的・歴史的知識は欠かせませんし、経済や政治の仕組みから時には宗教や倫理の問題まで踏み込むことも必要でしょう。そして、誰も完璧な解決策など持っていないこのような問題に、粘り強く現実的に解決への筋道を探っていく取り組みこそが人類の英知の発揮場所であり、それは家庭の中での議論でなら、年齢相応のところから始めることもできるはずです。

 二つ目の「自覚」は、恵まれた、あるいは特権的な立場にある者は相応の社会的義務を自ら負うべきだというノブレス・オブリージュの考え方に「知性の」と付いているところがポイントです。世界全体から見れば、私たちは間違いなく豊かで恵まれた生活を送っています。それだけでも地球社会に対して大きな義務を負うべきですが、親とこの国の社会の庇護の元で学業を続けることができ、その結果、真実を知るに至った者はどのように行動すべきなのかを自覚させる必要があるのです。今、人類と地球上の生物がどれほど深刻な危機にあるのかを切実に感じ取ったら、例えば、なぜ人類は環境破壊をすぐに止められないのか、なぜ多くの非常に貧しい国ができたのか、我々はそのような歴史にどうかかわりどうして今の繁栄を手に入れたのか、あるいは、どんな分野で何をすれば世界をよりよいものにできるのか、といったことをもっと知ろうとするでしょう。そして、知性を鍛え上げた者は自分は何をすべきかを考え、行動に移すはずです。
 我が子が生きていくのは、平和で恵まれた「この国」ではなく、危機が迫り問題の山積した「この世界」なのだと、親としても覚悟を決める時です。

03:54:00 | natalis | |